吹き溜まった言葉たち

七の黒服/4-03772FHのやり方

「おじちゃん、どうしたの?」

 その人は悲しそうな目で、ぼくを見てた。ぼくが首をかしげると、その人はびっくりする。

「俺が怖くないのか」

「なんで?」

 ぼくはまた首をかしげる。おじちゃんはお馬さんみたいだし、ホータイを巻いてるし、口がないけど、ぼくが見えるようにしゃがんでくれて、ちゃんと喋ってくれてるのに。

 そう言ったら、その人はもっとびっくりした。

「どう見ても、人間じゃないだろ」

「うん、怪獣みたい。でもおじちゃん、がおーとか言わないじゃん」

 叫んだら怪獣なのか、っておじちゃんは笑った。悲しそうな目で、にこりと。おじちゃんは悪い人にも怪獣にも見えないよ。

「お前が大きくなったら、多分怖くなる」

「そうなの?」

 今は怖くないのに、おっきくなったら怖くなるってかっこわるいな。そう思って、ぼくはおじちゃんのあたまを帽子の上からぽんぽんって叩いた。

 そしたら、おじちゃんは今度は泣きそうな顔をして、ぼくのあたまをくしゃくしゃにする。

「坊主」

「なに?」

「ありがとうな」

「なんで?」

 何もいい事してないのに、おじちゃんはにっこり笑ってぼくのあたまをくしゃくしゃ撫でる。気持ちがいいからぼくもにっこりすると、おじちゃんはちょっと悲しそうな顔をした。

「お前が大きくなったら、また来る」

「どっか行っちゃうの?」

 お友達になれたと思ったのに。ぼくはぶーっとほっぺを膨らませた。やっぱりおじちゃんはびっくりして、それから泣きそうな顔で笑った。

「お前が大きくなっても、友達でいれたらいいな」

「一回なったら、ずっと友達だよ」

 おじちゃんは最後にもう一度だけぼくのあたまをくしゃくしゃにして、立ち上がった。お馬さんの足が見えるけど、おじちゃんの顔は見えなくなった。

「坊主、ありがとうな」っておじちゃんは言う。泣いてる時みたいな声だった。「嬉しかった」

 そう言って、おじちゃんは行ってしまった。お馬さんの足だから、すごい速くて、ぼくは追いつけなかった。

 お母さんはいつまで経っても帰ってこなかった。その内お父さんが迎えに来て、おうちに帰った。

 次の日のテレビで、お母さんは殺されたって言われた。ハンニンは死者のボートクとか言う怪獣だった。テレビには、ぼくのいた公園がうつってた。



(坊主の親に手をかけてしまったのか。つくづく俺はついてない)

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